南房総で釣り

大学2年か3年の頃、友人のおじいちゃんが南房総に別荘を持っているっていうから友人4人で泊まりに行った。

一軒家とマンションの一室、南房総におじいちゃんが2つ別荘持っているとかほざいているその友人が叔母から借りてきたフィアットで向かうことになった。
そこもなんか生意気だった。

最初は首都高を僕が運転していたが
「急にくいって曲がるのやめてくれ」
「曲がる時に悲鳴をあげるのをやめてくれ」
「もう代われ」
と言われすぐ交代したのを覚えている。

南房総に到着した後、まず南房総で何をするのかを話し合った。道中誰も何をするかなんて話し合わなかった。

「観光地に来てなにかをするなんて誰にでもできる、けど観光地に来て何もしないってのは俺達にしかできない」
友人の1人がそんなユニークなことを言っていた。

結局海で釣りをすることになって、釣り道具を泊まらない方の一軒家の別荘へ取りに行くことになった。
しかしドアの入口付近にスズメバチの巣があるから、釣具の回収は困難だという。

入口を確認すると音がブンブン聞こえるくらい蜂がいて、これは流石に近寄れないだろと一同が思った時、先程ユニークを言った友人が「お前らひよってんじゃねぇよ」と言い放ち、蜂の中を歩いてドアを開け「どこにあるの?」と生意気な友人に聞いて釣具を回収してきてくれた。
(数年後そんなことあったねってユニークな友人に言ったら、あの時は正直めちゃくちゃ怖かったと言っていた。)

タバコを吸いながら皆でのんびりと釣りをして時間を潰すことになったんだけど、割とすぐに魚が釣れた。そして皆思った。
「釣ったはいいけど、この魚どうすんの? バケツとか用意してないじゃん」
誰も釣った後のことなんて考えていなかった。

なので友人2人がバケツを買いに車を走らせた。残った僕ともう一人は「バケツなんてここら辺に売ってんの?ないでしょ」と話し合っていた。

しばらくしてバケツを買いに行った友人2人が戻ってきた。
「バケツはなかったけど、道路にやかんが捨ててあったからこれ代わりになるよ」
そんなことある? やかんが道路に落ちてある?

ボロボロになったやかんに、コンビニで買った2リットルの水を入れて、その後に魚を入れた。

皆で「釣れたね」と魚を眺めたいた時だった。
「なんか魚、膨らんでね?」
「元気なくなっていってんじゃん」
「何でだろう」
確か僕が最初に気づいた。
「入れた水が淡水だからだろ」
誰もそれが海水か淡水なんて考えてなかった。

急いで海水に変えて、釣れた魚をやかんに入れていくことになった。
小さい魚だけど何匹か釣れて、それを晩ごはんにすることにした。

マンションの別荘へ着いて皆で早速調理を始めた。

僕はその時、人生でほぼ料理をしたことがなかったから、他の友人が全部調理を担当した。タバコはベランダでなら吸って良いと言われたので調理の間は日が暮れる南房総を眺めながらタバコを吸った。

そして揚げた魚が出来上がった時、僕は正直にいうかどうか迷っていた、今はもう食べれるけど、海鮮系がほぼ全部苦手で、光り物は一切ダメだということを。

揚げた魚は青魚で、おそらく僕は食べられない。

けど皆で釣って皆で料理したご飯だから、一人だけ食べたくないなんて言い出せず、一つだけでも無理して食べることにした。

一口かじって嘘を込めて「美味しい」と僕が言い切る前に「おい、無理すんな」と友人に言われた。
バレてるもんだな。